DR分類

DR分類(PDF 6.7MBダウンロード)

「線維性癌間質」を検討する意義

第88回大腸癌研究会の主題Iは『大腸癌の個別化治療に有用な癌悪性度所見』である。近年、個別化治療指標のひとつとして浸潤先進部の癌の病理組織学的所見が重視されており、大腸癌研究会においてもこれまでに「簇出」(第62回)、「低分化胞巣」(第75回)などが主題関連テーマとして取り上げられてきた。一方、基礎研究では癌微小環境、とりわけ間葉系組織の重要性が深く認識されつつある中で、大腸癌研究会で線維性癌間質に焦点があてられる機会は乏しかった。線維性癌間質の評価に関して、大腸癌取扱い規約には胃癌取扱い規約に準じ、線維成分の多寡を基準に髄様型、中間型、硬性型の3つに分類する方法が記載されている1。しかしながら大腸癌の大部分は中間型に分類されることよりその臨床的価値は乏しく、また胃癌取扱い規約ではこの分類の廃止も検討されている。

近年、浸潤先進部における線維性癌間質の形態の多様性とその臨床的意義が認識されている2-5。腫瘍浸潤部における線維化(desmoplastic reaction: DR)は、腫瘍先進部に特異的に出現する特徴的な線維性組織(myxoid stroma, keloid-like collagen)2を基準としてimmature、intermediate、matureの3つのカテゴリーに形態分類することが可能である3。この分類は個々の大腸癌の線維性癌間質の特徴を量ではなく質を基準に評価する方法であるが、術後の予後と強く相関し、従来の臨床病理学的因子を凌ぐ独立した再発リスク因子である可能性が示されている4,5。浸潤先進部を主題とした第86回大腸癌研究会においても複数の施設からDR分類の予後指標としての意義が報告された。

HE染色標本での診断が容易であるDR分類には、診断の簡便性に優れた新たな治療指標になる可能性が期待される。このアンケート調査を通じて本分類の臨床的意義を検証したい。

  1. 大腸癌研究会編: 大腸癌取扱い規約 第8版. 東京, 金原出版, 2013
  2. Ueno H, Jones A, Jass JR, et al: Clinicopathological significance of the 'keloid-like’ collagen and myxoid stroma in advanced rectal cancer. Histopathology 40:327-34, 2002
  3. Ueno H, Jones AM, Wilkinson KH, et al: Histological categorization of fibrotic cancer stroma in advanced rectal cancer. Gut 53:581-6, 2004
  4. Ueno H, Konishi T, Ishikawa Y, et al: Histologic categorization of fibrotic cancer stroma in the primary tumor is an independent prognostic index in resectable colorectal liver metastasis. Am J Surg Pathol 38:1380-6, 2014
  5. Ueno H, Shinto E, Shimazaki H, et al: Histologic categorization of desmoplastic reaction: its relevance to the colorectal cancer microenvironment and prognosis. Ann Surg Oncol 22:1504-12, 2015

DR分類

線維性癌間質は、myxoidな間質およびkeloid-like collagen(幅の広い断片状のヒアリン化したcollagen)の有無によって下記の3つに分類される。

immature: 好塩基性の細胞外基質が増量したmyxoidな間質。

intermediate: keloid-like collagen 2,3 (矢印:幅が広く断片化した好酸性のヒアリン化collagen)が混在する間質

mature: myxoidな間質およびkeloid-like collagenのいずれも有さない間質。一般的に線維方向が一定できめ細かく長い成熟した膠原線維が極性を維持して多層性に配列していることが多い

DR分類の判定方法

HE染色標本にて、固有筋層外における腫瘍先進部の線維性癌間質を弱〜中拡大の視野で観察してmyxoid stromaやkeloid-like collagenの有無を評価し、下記の手順でimmature, intermediate, matureに分類する。

myxoidな間質の領域が比較的狭い場合のimmatureの判定基準

immatureの判定のためのmyxoid間質の広がりに関しては、対物40倍顕微鏡視野を指標とする。myxoidな領域が対物40倍視野に相当する範囲より広く存在する場合をimmatureと判断する。

上の症例では40倍視野(赤破線)以上のmyxoidな間質の領域(黄色破線)があるため、immatureに分類される。

ページ先頭へ