主題1募集要項

『主題Ⅰ 大腸癌先進部における低分化所見が有する臨床的意義』を選択する方へ

大腸癌の低分化所見に関する演題を登録ください。

低分化所見の評価方法はご施設独自の基準で構いませんが、独自の評価基準に基づいた解析結果を報告される場合には、抄録に低分化所見の定義・判定方法を明記してください。
低分化所見の評価方法の一例として、「低分化胞巣」数を基準とする分類を提案します。この評価方法を採用される場合には、下記に示す定義・grade分類に基づいてご検討ください。

②を選択されるご施設への、アンケート調査のお願い

今回提示する低分化所見の評価基準に基づいて検討を行われるご施設は、アンケート調査にご協力をお願いいたします。解析結果の公表に際しては貴施設を共同発表者とさせていただく予定です。但し、施設数が多い場合には、症例数を基準に施設を選択させていただくことをご了解下さい。

すべての説明 [PDF 1.1MB]

アンケートのお願い

「低分化胞巣」を検討する意義

[PDF 116KB]

欧米では最も分化度の低い領域のgland formationの程度をwell、moderate、poor、 undifferentiatedと分類し、それぞれを grade 1~ 4とするgrade分類が用いられている(TNM分類)(1)。しかながらwellとmoderateの間の客観的な分別は難しく、またどの程度の小領域所見を診断の基準とするかが不明瞭でもあり、判定者間の診断不一致度が大きい(2,3)。腫瘍全体に占める分化型領域の割合により、95%以上(grade 1)、50%-95%(grade 2)、5%50(grade 3)、5%未満 (grade 4)とする分類 (WHO分類)や(4)、50%を基準にlow gradeとhigh gradeに2分する方法(College of American Pathologists)も提唱されているが(5)、癌の悪性度は高悪性所見の相対量よりも、その絶対量に反映されるとも考えられ、これらの分類に最大限の予後情報を求めることができるかは疑問である。
一方、本邦にはgrade分類が存在しない。先進部組織型の重要性はしばしば報告されているが、標準化された診断基準がない現状にある。第62回大腸癌研究会において、先進部組織所見として簇出(budding)の意義が議論された。本所見は、大腸癌研究会プロジェクト研究において、特にSM癌のリンパ節転移指標として有用であることが明らかとなり(6)、ガイドライン2009年版で内視鏡切除後の追加腸切除の指標として記載された(7)。一方単個もしくは5個未満の細胞からなる癌胞巣と定義される簇出の病巣には、線維芽細胞、組織球、血管内皮細胞との鑑別が容易でないものもあり、サイトケラチン染色などの免疫染色の必要性も指摘されている。
最近の検討により、5個以上の細胞からなる比較的大型の腺腔形成の乏しい癌胞巣(「低分化胞巣」)は、簇出同様SM癌のリンパ節転移と関連し(8)、また本所見の出現が乏しい進行癌症例の予後は極めて良好である可能性が示されている(9)。HE染色標本での診断が容易である「低分化胞巣」には、診断の簡便性と定量性に優れた新たな病理組織学的指標になる可能性が期待される。

(1) Sobin LH, et al, eds (International Union Against Cancer). TNM Classification of Malignant Tumours. 7th ed. Wiley-Blackwell, 2009
(2) Riddell RH, et al. Colorectal carcinoma. In: Rosai J, Sobin L, eds. Atlas of tumor pathology-Tumors of the intestines. Washington: Armed Forces Institute of Pathology:133-188, 2002.
(3) Compton CC. Colorectal carcinoma: diagnostic, prognostic, and molecular features. Mod Pathol 16: 376-388, 2003.
(4) Hamilton SR, et al. Carcinoma of the colon and rectum. In: Hamilton S, Aaltonen L, eds. World Health Organization Classification of Tumors-Pathology and genetics of tumors of the digestive system. IARCPress: 105-119, 2000.
(5) Washington MK, et al. Protocol for the examination of specimens from patients with primary carcinoma of the colon and rectum. Arch Pathol Lab Med 132, 1182-1193, 2008.
(6) 河内洋、小池盛雄:大腸癌における簇出診断の意義-大腸癌研究会簇出検討プロジェクトの結果.大腸疾患NOW 2007(武藤徹一郎監修,杉原健一/藤盛孝博/五十嵐正広/渡邉聡明編集): 87-92,日本メディカルセンター, 2007.
(7) 大腸癌研究会編. 大腸癌治療ガイドライン医師用 2009年版, 金原出版, 2009.
(8) Ueno H, Mochizuki H, et al. Proposed objective criteria for “grade 3” in early invasive colorectal cancer. Am J Clin Pathol 134: 312-322, 2010.
(9) Ueno H, Mochizuki H, et al. Histological grading of colorectal cancer. A simple and objective method. Ann Surg 247: 811-818, 2008.

「低分化胞巣」の定義

[PDF 168KB]

間質浸潤を呈する癌胞巣の中で、5個以上の細胞から構成され、腺腔形成が乏しい癌胞巣(注1)。脈管内・外は考慮せず判定し、壊死変性や炎症細胞浸潤等により断片化した癌組織、“粘液湖”に浮遊する胞巣は「低分化胞巣」に含まない(注2)


矢印:「低分化胞巣」(対物40倍)

(注1)“腺腔形成が乏しい癌胞巣”とは、腺腔形成が皆無か、細胞質内小腺腔 (intracytoplasmic lumina: ICL)などの微小な腺腔のみを有する癌胞巣である。明瞭な腺管を形成する胞巣は「低分化胞巣」に含めない。

矢印:細胞質内小腺腔(ICL)や、ICLと鑑別を要する細胞質内空胞や胞体内粘液を伴う「低分化胞巣」(対物40倍)


(注2) 壊死・変性(a;対物20倍)や炎症細胞浸潤(b;対物40倍)のために腺管が断片化した結果小塊状化した癌胞巣は「低分化胞巣」には含めない。一方、粘液産生腫瘍における「低分化胞巣」の判定に関して、大量の粘液(“粘液湖”)中に浮遊する癌胞巣(c;対物10倍)は「低分化胞巣」とせず、腺腔形成の乏しい癌胞巣が周囲に少量の粘液を伴いつつ間質浸潤するもの(d;対物20倍)は「低分化胞巣」とする。両者の分別は癌胞巣と細胞外粘液の面積的な比率を基準としておこない、癌胞巣を大きく凌駕することのない程度の粘液を伴う癌胞巣を「低分化胞巣」と評価する。

手術標本における「低分化胞巣」のgrade分類

[PDF 64KB]

① 腫瘍の代表割面において腫瘍全体を低倍率の顕微鏡視野で観察し、間質中に「低分化胞巣」が最も高度に存在する領域を選定

② 選定した領域を対物20倍の顕微鏡視野で観察し、病巣全体が視野内に存在する「低分化胞巣」の数をカウント

③ Grade分類の指標

Grade 1:4個以下
Grade 2:5~9個
Grade 3:10個以上

対物20倍視野における「低分化胞巣」の観察例

[PDF 108KB]


Case 1. 「低分化胞巣」を認めない (grade 1)
 
Case 2. 大型の「低分化胞巣」を 1個認める (grade 1)。「低分化胞巣」数のカウントは、病巣全体が対物20倍視野内に含まれる病巣を対象としておこなう。また、「低分化胞巣」の判定に胞巣径は考慮しない。

Case 3. 癌腺管間の腫瘍間質に、 6個の「低分化胞巣」を認める (grade 2)
 
Case 4. 癌先進部の領域に、 8個の「低分化胞巣」を認める (grade 2)

Case 5. 10個以上の「低分化胞巣」を認める (grade 3)
 
Case 6. “invasive micropapillary”と表現されることもあるが、周囲に空隙を伴う「低分化胞巣」を多数認める (grade 3)。いずれかの癌胞巣がリンパ管内に存在する可能性もあるが、「低分化胞巣」の判定に際して脈管の内・外は考慮しない。

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